大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(ネ)5088号 判決 1999年3月31日

控訴人(附帯被控訴人)

丸子警報器株式会社

右代表者代表取締役

塚田正毅

右訴訟代理人弁護士

湯本清

茅根熙和

春原誠

被控訴人(附帯控訴人)

手塚圭美

山本きぬ子

右両名訴訟代理人弁護士

岩下智和

滝澤修一

松村文夫

上條剛

内村修

町田清

鍛治利秀

水口洋介

今野久子

鈴木幸子

中野麻美

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決主文に次のとおり加える。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)らに対し、それぞれ金四九万六〇〇〇円及び内金二四万九〇〇〇円に対する平成九年八月九日から、内金二四万七〇〇〇円に対する同年一二月二六日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用(附帯控訴の分を含む。)は、第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

四  右第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)らの請求(附帯控訴による請求の拡張分を含む。)をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要及び争点」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書二四頁三行目の「こと」の次に「から四名の余剰が生じること」を、同行目の「合計」の次に「九名が余剰となり、」をそれぞれ加える。

二  当審における控訴人の主張

1  被控訴人らの雇用継続への期待が保護されるべきものとしても、被控訴人らはいずれも本件雇止めの時点で六〇歳を超えており、六〇歳を超えた臨時社員の雇用継続への期待の保護の程度は、六〇歳以前のそれと対比すれば、相対的に低いものと考えるべきであるから、控訴人が雇止めの必要がないにもかかわらず雇止めをしたような場合であればともかく、雇止めの必要性がある以上、雇用調整を容易にするために臨時社員を採用した控訴人の利益を優先すべきであり、雇止めの回避措置や労使間の事前協議がされていなくても、本件雇止めが権利の濫用あるいは信義則違反に当たるとはいえない。

2  控訴人は、被控訴人らが所属する全日本金属情報機器労働組合長野地方本部丸子警報器支部(以下「組合」という。)との間で本件雇止めに関し、平成八年四月と五月に延べ八回の団体交渉を行ったが、組合は単に全面的な撤回を求めるだけであったため、交渉は物別れに終わった。

3  以下に述べる本件雇止め後の状況は、本件雇用止めに十分な必要性があったことを示している。

控訴人の平成九年三月期及び同一〇年三月期の営業損益の赤字は同八年三月期のそれに比べ大幅に増大しており、経営状況は一段と厳しさを増している。また、製品の納入数も平成一〇年三月期においては同八年三月期の九割近くに減少することが予測されている。更に、本件雇止め後、控訴人の従業員は一三名減少し、組立作業者の新規採用は一名もないにもかかわらず、組立作業の遂行に支障は出ていないし、要員が不足しそれを長時間残業によって補っているということもない。

4  予備的主張

仮に、本件雇止めが無効であり、平成八年六月一日に控訴人と被控訴人らとの間の雇用契約が更新されたとしても、控訴人は同日以降の期間二か月の雇用契約を更新しない意思を有しており、本件訴訟を係争していることをもって、右意思を被控訴人らに明示している。したがって、その後の受注状況や要員需給等から、雇止めの必要性が認められる時期において、雇止めが容認されるべきである。

そして、右雇止めの必要性が認められるべき時期としては、第一に、M四リレー及びホーンリレーの受注が大幅に減少したため、製造第六課と製造第七課を統合し、右各課の要員の一部を他課に配置転換した平成九年九月一日の直後の雇用期間満了日である同月三〇日であり、第二に、同年一一月三〇日以降組立要員のうち六名が相次いで退職し、その補充をしていないにもかかわらず、格別要員不足は生じていないから、その直近の雇用期間満了日である右同日である。

三  附帯控訴の請求原因

1  控訴人と組合との間において、平成九年八月一日、同年夏季一時金(賞与)について、臨時社員一人平均二六万〇二〇〇円、支給日を同月八日とすること等を内容とする協定が、同年一二月一七日、同年年末一時金(賞与)について、臨時社員一人平均二五万七三五〇円、支給日を同月二五日とすること等を内容とする協定がそれぞれ成立した。(当事者間に争いがない。)

2  右協定を被控訴人らに適用すると、被控訴人らが受けるべき賞与の金額は最低でも、夏季一時金は二四万九〇〇〇円、年末一時金は二四万七〇〇〇円である。

第三証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所の判断は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書二八頁二行目の「原告らとしては」から同一〇行目の「基本的な争点である。」までを削る。

二  同二九頁四行目の「失うに至るものであるから、」の次に「次の四点に照らし、」を加え、同六行目の「検討されるべきであり、」を「検討されるべきである。」に改め、同行目の「整理解雇が」から同三〇頁一行目末尾までを次のとおり改める。

「 <1> 整理解雇をする経営上の必要性があるか、ある場合その程度

<2> 使用者が整理解雇を回避する努力を尽くしたか

<3> 労働組合との間の協議を尽くしたか

<4> 整理解雇の基準が合理的か」

三  同三〇頁四行目の「結果的に」を「前記のように」に、同八行目の「規制される」を「規制され、前記の四点に準じる検討が必要な場合がある」にそれぞれ改め、同三五頁八行目の「すべきかを」の次に「前記四点に準じて」を加え、同行目の「相当性」を「許容性」に改める。

四  同三五頁末行の「原告ら」から同三六頁三行目の「一応言及するに、」までを削る。

五  同四〇頁末行の「整理解雇」から同四一頁三行目の「ことに、」までを削り、同行目の「都合」を「必要性」に改める。

六  同四六頁四行目の「雇止めが許容される条件」を「雇止めの許容性を判断するに当たり考慮すべき事項」に改める。

七  同四六頁一〇行目の「何ら」を「十分に」に改め、同四九頁一行目から二行目にかけての「希望退職者の募集を試みるべきである」の次に「(控訴人は、希望退職者の募集をすることが困難あるいは無益であったことの主張・立証をしない。)」を加える。

八  同四九頁九行目の「原告らが六〇歳以上であることの問題」を「整理基準の合理性」に、同五六頁一行目の「具体的に妥当な場合もあり得ると思われる。」を「全く合理性がないとはいえない。」にそれぞれ改め、同行目の「しかし」から同五七頁八行目末尾までを削る。

九  同五七頁一〇行目の「本件雇止めは、」の次に「その整理基準が合理性を欠くとまではいえないが、」を、同頁末行の「募集などの」の次に「十分な」をそれぞれ加え、同五八頁二行目の「を認めることも」から同頁六行目末尾までを「の程度は前記認定のとおりであるから、本件雇止めは権利の濫用に当たるというべきである。」に改める。

一〇  当審における控訴人の主張に対する判断

1  右1について判断するに、前記のとおり、本件雇止めの整理基準が合理性を欠くとまではいえず、雇止めの必要性がないわけではないけれども、そのことから直ちに本件雇止めが権利の濫用に当たらないということはできず、権利の濫用に当たるか否かについては、雇止めの回避措置や労使間の事前協議の点も考慮する必要があるから、右主張を採用することはできない。

2  右2については、前記のとおり、組合に対する本件雇止めについての通告が被控訴人らに対する雇止めの通告と同じ日にされたことからみて、十分な事前協議が行われたと評価することはできない。

3  右3について検討するに、(証拠略)並びに(人証略)の各証言によると、右主張の事実が認められるが、他方、(人証略)の証言によると、控訴人会社においては平成八年一〇月以降、ホーンラインの第九ラインで二直体制をとり、当初は管理職が担当していたが、平成九年に入ってからはブラジル人男子四名が二直を担当していることが認められ、さらに、(証拠・人証略)によると、控訴人会社は平成九年一〇月以降継続的に組合に対して三六協定の締結を要請していたことが認められ、また(証拠・人証略)によると、控訴人会社の平成一〇年三月期における配当金は一割の外に特別配当金が二分あり、次期繰越利益金は三億円以上であったことが認められることに照らすと、本件雇止めに関する経営上の必要性の程度についての前記判断は動かない。

4  予備的主張について判断するに、平成九年当時の控訴人会社の経営状況は右3のとおりであることに加え、右主張に係る各雇止めについては希望退職者の募集や労使間の事前交渉が行われたことが窺えないことに照らすと、右各雇止めも本件雇止めと同様の理由により権利の濫用に当たるといわざるをえない。

一一  附帯控訴について

請求原因1の事実については当事者間に争いがなく、同2の事実については(証拠略)及び弁論の全趣旨によって認めることができる。

第五結論

したがって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、附帯控訴に基づく被控訴人らの請求は理由があるから、いずれもこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項前文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(平成一〇年一一月二五日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 生田瑞穂 裁判官 宮岡章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例